読書の記録(2017年4月)

ロシア文学うらばなし
古書店で購入。なかなかに面白かったけれど、物凄く素晴らしいという本ではない。
「世俗臭ぷんぷんたる」は、「世俗臭がぷんぷんする(している)」か「世俗臭芬芬(ふんぷん)たる」のどちらかだろう。私としては前者を推したい。こうしたことに気づくのはヒネクレ老人化の一端であろうか。

ホジャの笑い話〈1〉トルコの民話 児島満子、児島和男
古書店で購入。面白くはあるが、量的に物足りない。昔話だけにあっさりしていて、情景を彷彿とさせるところまで行かない。トルコの頓智王ナスレッディン・ホジャについては、佐々木マキ氏の絵物語(たぶん、「かがくのとも」)で知ったのだが、あれは、佐々木氏の軽妙でトボけた絵と相まって、非常によろしかった。

湿原のアラブ人
リクシルブックセンターで買った本。
例えば、人類学的な洞察が見られず、描写が表層に流れるため、いささか興を削がれる。私自身のバックグラウンドが浅いためではあるけれど。
一箇所「部族連合」が「部族連造」になっている。こうした「本」もまた、原稿用紙ではなくワードプロセッサ(ソフトウェア)で作られているのだなあ。
(誤変換や誤変換が残ってしまったのは、ワードプロセッサのせいではなく、入力者の誤入力、日本語インプットメソッド、スペルチェッカーのせいであろうけれど。)
今でいうトランスジェンダーの人々が、世の中に正当に位置付けられて穏やかに暮らしていることが書かれているのが面白かった。

ペスト カミュ
昔々買った本。私の中で小説最高峰のひとつ(順位づけをいちいち考えているわけではないけれど)。
冒頭、ペストが蔓延しつつあるのは間違いないのに、統治機構がそれを公式に認めない重苦しい描写に、3.11の頃を思い出した。なぜ、あの時あるいはもう少し後でこの書を読み返さなかったのだろう。あまりに同調していて、読むことに自分の気持ちが耐えられなかったであろうことは間違いないけれど。

映画「やさしい女」を見逃していることに気づいた。仕方がない。

二年ぶりの蟲文庫訪問。覚えていて頂いた。身に余る光栄。
「モンドリアンドリとケープドリ」、「ルバイヤット集成」を購入。後者は、二年前に4冊ほどあった関連書の残り。ここで見つけたならば買わざるべからず。
蟲文庫が開くまで、裏山探検をしたが面白かった。宮崎駿であれば、長編アニメーションを作ってしまいそうな複雑奇怪な構造だ。ともあれ、蟲文庫周辺は、実は私が過ごした町を思わせるものがたくさんある。旧街道の古い町並み、格子窓、瓦屋根に乗った銅製のランプ。海鼠壁に「うだつ」。家々の隙間の細い道。裏山の細道等々。あの場所の、ある時代を生きた人々を描くことができるならば、と思ってしまう。倉敷のまた別な場所でもご記憶いただいていた。ありがたいことである。

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今週の戯れ歌

老木を這い登りたる葛青み雲白く流れ春まだ浅き

スイッチを入れたるやうに空の変はり今日から春は街を覆へり

白雲の空に浮かぶは地の熱の対流せるを直ぐ現せり

羨まず妬まず嫉まず己あるがまま只在るやうに只在らば在れ

いずれなる態になるとも驚かず只在るやうに在りたしと思ふ

己にはできぬ事をば頼み難し試せるうちに出来てしまつた

敵襲に敵前逃亡するならば銃殺さるも覚悟せよ汝

愛をもて語る教への尊かるされど現世の我は愛せず

許せぬは言葉なくとも伝はるらむ伝へるつもりの皆無なるとも

許されぬ人の遠くに逃げるべし我は当面許す予定なし

人生の様々な面にあつて来て醜晒さぬを安らかに思ふ

己が持つ時間を全て仕事して人間らしさの些か減ぜり

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読書の記録(2017年3月)

新折々のうた第一巻 大岡誠 
古書店で百円。楽しく読めた。坂田修一氏のうたは好きだ。いわゆる文科系の人間からみると、理科系の人間は謎めいて不可解なのであろう。

薔薇十字団 ロラン・エディゴフェル
昔買った本。文庫クセジュは端倪すべからざる奇書を含んでいる。この本は、奇書についての書であって、この本自体が奇書ではないのだろうが、結局のところ、奇書に等しいようなものだ。読んでも全く役に立たないことは保証できる。でもね、そういう本が面白いのだよ。偽史についての正史とでも言おうかね。

地の果ての獄 山田風太郎
古書店で購入。江戸から明治への過渡の有様には、興味があるけれど、なかなかこうした書はないので、大変面白い。もちろん、これは小説であって、記録ではないけれど、或る程度の事実と小説家の空想がない交ぜになっているのは間違いない。
私の個人的体験として月形町についても少々知るところがあって大変楽しめた。とは言うものの、回収されていない伏線がたくさんあるとか、少々ご都合主義もあるということは致仕方ないこととしよう。
娯楽作品とはいえ、これだけの活字を読む気になるだけ仕事が一段落したということで大変喜ばしい。

写真で綴る 飯田線の旧型国電
書店で購入。昔々の鉄道ピクトリアルの飯田線特集や、旧型電車ハンドブックを愛読している(していた)者にどうしても必要という書ではないけれど、それはそれ。
同好の士と気持ちを分かち合うために買ったということではある。

柳多留名作選
古書店で購入。俳風柳多留は読んでみたいし少々触れたこともあるけれど、全文読もうという気までは起きない。これくらいがちょうど良いのでは。

作画汗まみれ 大塚康生
以前買った本。一読ではわからなかったことも、手塚治虫ブラックジャック創作秘話(全4巻)を読んで理解が大いに進んだ。
私自身は、ハンナ&バーベラの「トムとジェリー」を見て育ったので、チャック・ジョーンズ版を見ると「絵が雑」(話も雑)に見えてしようがない。また、昔の「妖怪人間ベム」に至っては「ほとんど紙芝居」だと思う一方、動きの制限を、話の暗さや硬さに同調させているところは、実は優れているように感じている。
いずれにせよ、この書から教えられるのは、ものを創り上げることの困難と喜び、また、現在という時間が過去の様々な積み重ねによって成り立っていること、である。
再読してよかった。

日本史漫談 パオロ・マッツァリーノ
古書店で購入。いつもながら学びが大きい。

氷川清話 勝海舟(談)
昔々からの愛読書。角川版。私の人生の根底にある書のひとつであろう。
いわゆる道歌は、国語の教科書に出て来ない和歌であるが、道歌に初めて出会ったのも実はこの書である。
「斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ踏み込みゆけばあとは極楽」

仕事が少々落ち着き、本も少し読めるようになった。ありがたいことである。一方、記憶力が落ちているので、昔読んだ本を楽しく再読することができる。これはありがたいのかどうか。

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情景

喪服姿の三人が家の前を通って行った。

足早に歩く男が先頭に。肩を怒らせ、大股に。
男の影になるように、たぶん男の妻がついて行く。
男の斜め後ろを行くのは、肩の線が似た、男の妹であろうか。昨日田舎から出てきたようではある。

休日の朝、日を浴びて、三人で歩いて行った。

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今週の戯れ歌

神あるを信じてをらぬ我なれど神無きことを信じるでなし

生きるとは休める人を羨みつ土日仕事で埋め尽くすこと

生きるとは回らぬ頭抱えてはそれらしきネタ捻り出すこと

生きるとは人に頼める作業なく己の分の減らずあること

土日なく暮らすは辛き忙しさプレミアムとやおふざけなるかな

仕事して死ねるも別に異議はなし我が生きるには左程意味なき

ひと思いに死すならそれも良からまし死したる後に自我の無ければ

生きるとは倒れる時を繰り延べて倒れるまでは倒れずあること

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読書の記録(2017年2月)


トマ美とホヤッコのみちのく旅行記 野田映美
縁あっていただいた本。こういうの好きなんだよね。等身大の作品というか。自分も、仙台や南三陸に行ったことがあるしね。

ところで、「孤独のグルメ」は、私も好きなのだが、あそこで取り上げられている店に行っているようでは真のファンとは言えまい。ゴロー氏が思わぬ出会いに戸惑っているように、私たちも、人から聞いた情報ではなく自分の運と感性で店を見つけ、恐々と入ってみて、ゴロー氏同様の冒険を試みるのが、正しいファンのあり方であると思うのだ。

戦う操縦士 サン=テグジュペリ 堀口大學
三十数年来の愛読書。三十年間同じ読み方をしているわけではないが、我が青春の書として外せない一冊。敗北の中を生きることについて考えさせられる。そもそも生きることは敗北に耐えることに他ならないとも思うのだ。
他に、永い愛読書を挙げるならば、山家集とルバイヤートであろうか。我が墓にはそればかりあればよかろう。


忙しいとはいえ、あまりにひどい読書の記録。少々見たものは来月につけておこう。

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今週の戯れ歌

新たなる我は非情に生くるべし温情あるの甲斐のなければ

人たちはうたた情けを知らざりき我が温情の価思へよ

嫌われる勇気が必要と説かれたるのもあな憎らしや

規則とは人を鍛えるものなりと夜間飛行のリヴィエールの言

厳しさの陰に知られず愛せよと業をなせるはかくもあれかし

放置せる我が優しさはその実は助ける気のないお為ごかしよ

元気よく失敗に向け勇み行く輩を止む親切心なし

いささかの軽侮の念の捨て難く隠しおほせる事のなからむ

虚しさは過ち犯す人ありて気付かぬままに安らぎをること

己が身の拙き限りを知らざらで安らぎをるを憎しと思ほゆ

何をしても失敗すなる人のありその跡を追ひて虚しさを思ふ

何しても何処にあつても何時なれど過つ人の虚しきは幾許

掬っても掬っても洩る笊の如く過ち正せど終わり見えざる

明日朝は冷たくなつて醒めぬのもまたよろしからずやちと草臥れた

ありありて笑つて死ねれば宜しかるその余のことは思ひ及ばず

拙にして愚なれば只前に進むべし悩む機能のさらにあらざる

人とありて噛まぬ議論のつきづきしあなたの前提は一体何ですか

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今週の戯れ歌

あのひとの生きて在るらし影を見ば畏れと期待の相半ばせり

我はなほ生きる甲斐なく生きてをり切なる生の遠くありけり

空を行く雲に思ひを託さむと勁く見詰めし若き我なる

あの頃の切な想ひを忘れ果て今ある我は魂もなき

知り合いの知り合い位にあの人の居るらしくあり子細は知らず

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読書の記録(2017年1月)

るきさん 高野文子
大きくなったちくま書房版。再読。
ダイアル式の黒電話。電線を引っ張ってお風呂で電話。地上駅に、踏み切り、地平ホームに降りる跨線橋。今見ると時代の風景が懐かしい。

幸福な死 カミュ
古書店で百円。当然、「異邦人」との関係で読むのだが、なかなか面白かった。単独で読むには未完成に思われるが、異邦人とはかなりの隔たりがあり、興味深い。

沢田マンション
リクシルブックセンターで買った本。文庫本であり、写真が小さいのが難(そんなことは、購入前からわかっているのであるが)。奇妙なマンションの奇妙な有様がなかなかに楽しかった。ともあれ、奇妙奇天烈なだけではない、普通の人々が日常を暮らす建物であるからには、ある意味普通の面もなくはない。

キャラ立ち民俗学 みうらじゅん
リクシルブックセンターで買った本。相応に面白かった。偶に編集不足であるような文章がある。出版社さんしっかりして下さい。

武士道 新渡戸稲造
古書店で百円で買い、積んであったものを途中まで読んだ。
書かれた時代及び新渡戸の立場という文脈に非常に強く依存しているので、この本を現代的に読んでその価値を批評することにはほとんど意味がない。
非常にいい加減にまとめると、日本古来の伝統に根ざした武士道という倫理があって、それはキリスト教やギリシア哲学といった西欧の価値観とも非常に合致する、ということだが、これを江戸から明治に育ったキリスト教徒である日本人が十九世紀的で(その時点での)キリスト教を唯一の価値観とみなす西欧優越主義の文脈で書いたとなると、それだけで複雑奇怪であろう。
個々のエピソードなどに面白い点は見られるものの、この書をもって、「全ての/多くの/一部の日本人は武士道を倫理観としている」と単純に言ってしまうのは難があると思う。「日本人の思想的背景のひとつに武士道がある」という程度の一般論であれば、さほどの問題はなかろうと思うが、その言い方であれば、何でも良くなってしまう。
ともあれ、こういうことを感じることができたという点で、やはり現物を読んで良かった(正確には、英語で書かれた原典を和訳したものであり、新渡戸の書いた英文を読んだのではない。英語原文を読むには、いわゆる英語力だけではなく、相当の背景知識が必要になるであろう)。
なんとか全部読もうと思う。

宮沢賢治「春と修羅」をめくり見る。面白い。心穏やかに詩文を友として生きるべき境地が近づいてきたのか。

デルスウ・ウザーラを少し読む。以前読んだ時以上に、デルスウの心の美しさに惹かれる。智よりも情の年齢になったということか。

湿原のアラブ人も少々読む。人類学の素養があるでもない人の文章は少々煮え足りないところもあるのだが、観察が全てに勝るわけでもなく読みやすいといえなくもない・・といったところか。なぜ、あなたはそこに居ることを決意したのか。結局のところ、よくある英国情報部員であったのかも知れないなどと思ったりする。

昨年はあまり本を読めなかった。仕事に関係して読むべき本が多かったせいでもある。今年もぼちぼちやりましょう。と思った先から、度を越して多忙になってしまった。残念だねえ。油断していると悪魔はやって来ると言って良いのかも知れない。「良い人」が世間を渡って行けない好例だねえ。心を入れ替えて、冷血非情になってみるものかねえ。

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今週の戯れ歌

生きる意味を求めし我の若き日の手の届かざる遠くにあるらむ

生きる意味を思ひ働く我が身には銭の多寡こそ度外視はせむ

銭金を問ふなと昔父のいふ武士は食はねど高楊枝とも

余りにも酷き仕事の技を見ば凶暴なる我深くで目覚む

普通なる仕事を普通にせむ我怒らするその輩こそ酷さ知るべし

願わくは十人中の人並みに仕事したるを我は望めり

人よりも仕事したいと思はざるしたくないとも思はざるなり

何故そんな誤りせるか問ひたかり意図なくするはいと難しき

仕事厭ふ心の強くあるならば職去ることを切に勧めむ

職あるを必要とせば仕事せよ心ある人間の常のわざなる

心がけを幾度正せば正さるる正さぬ人の心正せぬ

給料をもらう心のあるならばせめて恥ざる仕事のあれかし

頭下げる日を前にして己が心を穏やかにせむ

我に責ありと思へど人を信じることは無駄なるか

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