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好きな書店(小倉ナガリ書店)

好きな書店、と言われても、なかなか思い浮かばない。そんな時期が長かった。

北九州市小倉駅前の魚町商店街にあるナガリ書店は良い。北九州と言うと、観光名所があるとも思えず、期待もせずに行った場所であるけれど、そしてまた、北九州に行く本来の目的である仕事が大変に辛かったせいでもあるけれど、それだけに忘れがたい書店であった。

商店街を通り抜けるついでに、見つけた本屋である。大したことはなかろうと多寡を括っていたが、店頭の平積みに、明和電機の特集をやっていた。それまで明和電機の活動を耳にはしていたものの、具体的な書物や作品を見たことがなかったので、大変興味を惹かれ、特集のうちで、「明和電機ショートストーリー」(土佐正道)を購入した。飛行機の中で熱中して読んだ。特異な発想のアートであり、大変面白かった。これだけ工業が発達している中で、それを生活感情として、芸術として展開できていないのは、文明としては問題ないのであろうが、文化としてはいびつであろう。そうした真面目な視点を表に出しているわけではなく、むしろ揶揄する方向にある明和電機の活動は大変面白いものと思った。

さて、次なる機会にお邪魔した折には店内を細かに見た。漫画、文庫、実用など月並みな部分もある。しかしながら、ボルヘスなども結構並べている。私がボルヘスを見ていると、店主が近づいて来た。私は「世界の幻想文学」で、キャロルの紹介を韻文で書いている四方田犬彦に大変興味があり、その四方田に就いて訪ねたところ、大変適切な回答が返って来た。結局、ボルヘスと、「月刊 幻想文学」のラテンアメリカ特集を購入した。出張先の鞄に入れるにはちょいと酔狂である。店主は「ボルヘスがお好きなんですか」と問うて来る。本が好きで堪らないと言う様子。書店主たるもの、こうでなくてはならない。私は、ボルヘスとレムを愛読している旨を伝えると、益々嬉しそうであった。

大きい書店はあまたあるけれど、本当に好きでやっている小さい書店と言うのは、なかなかない。経営が成り立ちにくいのは重々承知しているけれど、まことに残念である。私が中学から高校時分には、学生服のポケットに岩波文庫を入れているのを一種誇らしく思っていた。高価な書物を購うことはできなくとも、志ばかりは高くありたいと思っていた。ポケットから出すのに恥ずかしい本だけは読むまいと思っていた。今ではそんな気負いもなく、面白ければ構わないと言う草臥れ振りではあるものの、二度読まないような本は懐に入れたくないと言う気持ちは変わらない。

読まない本がたくさん置いてある本屋には用がない。こちらの知らない本、思わず知らず読みたくなる本がそれとなく置いてある本屋を探して久しい。そんな本屋を捜して久しいが、最近ちょっとばかり収穫があった(乞う御期待)。

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