飲食店の選び方
我が父は飲食にうるさく、飲食店の選び方には一家言以上のものがあった。
端々で聞いた名言(あるいは迷言)を語録風に残しておこう。
●飲食店を選ぶ際、本や雑誌を見るな。他人の言に惑わされるな。自分の目で店構えを見て、興味があるならば試してみよ。試した上で、自分に合っているかどうか考えよ。
●自分とっての良い店は、本や雑誌に掲載されるのを嫌がっている。それは一見客が増えて店が荒れるからだ。雑誌等に取り上げられた直後は客が増えてその時だけは儲かるかも知れないが、混雑ゆえに常連客が離れ、長期的に見て経営が悪化する。
●他人にとって良い店が自分にとって良いとは限らないし、自分にとって良い店が他人にとって良いとは限らない。
●自分にとって良い店を自分で探すしかない。
●飲食店の悪口は言うな。本当に駄目な店なら潰れる。
●飲食店の悪口を言う必要はない。自分が気に入らない店であっても、その店が存続しているのであれば、それは誰かにとって意味がある店である。誰にとっても意味がない店は存続できない。
●自分にとって良い店とは、自分の身の丈にあった店である。高すぎる店・安すぎる店、どちらも自分には合わない。
●自分にとっての良い店は、時と場合により異なる。早い店が良い時もあり、ゆっくりしたい時もある。安い店が良い時もあり、高い店に行きたいこともある。
●安くとも高くとも値段に見合ったものが出てくるのが良い店である。
●気に入った店があったならば通え。どんな店でも大切なのは常連である。通って常連にならずに店から大切にしてもらおうなどと思ってはいけない。
●常連とは毎日通う客だけではない。 間遠であっても必ず来る客もまた常連である。
●それぞれの店にはそれぞれの常連がいるのだから、その店とその常連を大切にせよ。店の流儀を大切にせよ。
●自分が好きなのは、カウンターの店、板前の手元が見える店、家族経営の小さな店、地元の常連が通う店。そしてまた、その日その日の旬のものを食べさせてくれる店。
●そういう店ではまず「今日何がある?」と聞いてみよ。そして答えられたものを頼め。答えられたものが何であるか分からなくとも、頼んで見ればわかる。
これをもって人生の極意ということもできるかも知れぬ。今年父は亡くなり、父が年に数度何時間か列車に乗って通っていた飛騨高山の鰻店「陣代」も先日閉店したという。陣代の大将・お上さんには、一度長年の謝意をお伝えしたかったが、それも叶わぬこととなった。もって瞑すべし。