良い楽器に触らせてもらう日

昔、楽器屋で高価なチェロ・高価な弓に触らせてもらったことがある。

当時学生だった私は、50万円くらいの量産品のチェロを使っていた。良く鳴る良い楽器だったから、各大学で同じメーカーの楽器を1台ずつは使っていたと記憶する。
それ以外の学生も概ね同程度の楽器を使っていたと思う。おそらくは30〜80万円程度。
そして、わづかに楽器に理解のある親族があるなど特別な事情があると、100〜200万円あるいはそれ以上の楽器を使っていたのではないだろうか。

そして、大学に長くいた私は、下級生の楽器選びを手伝うことが多かった。

実は当時楽器選びをする際、特定の楽器屋とのみ付き合わないようにしていた。
まあ、その地域のアマチュア奏者の多くは、学生か学生OBだったから、学生に変な楽器を売りつければ、その楽器屋は商売が立ち行かなくなるだろう、とも思ったが、そうであっても、「この楽器屋で買わねばならない」という状況を作らないようにしていた。
もちろん、無限に多くの選択肢があったわけではないけれど、数軒は付き合うようにしていた。

で、どの店も学生に親切だったけれど、ある楽器屋は、経営者が大学オーケストラのチェロ出身だったらしく、割合にチェロ学生を構ってくれることがあった。

ある時は、背板が斜めに継いである楽器を見せて、「こういう楽器を買うのは慎重にした方が良い」などと言い、またある時は、「ドイツ、イギリス、日本の楽器は、同じメーカーで同価格なら同じ性能の楽器と考えて良いが、フランスやイタリアは個体差が激しい」といったことを教えて下さった。

さて、とある平日の昼間たまたまその楽器屋に行った際、待ち時間を過ごしていると、その経営者が「良い楽器と良い弓があるから弾いてみるか」と言って、古い楽器を出して下さった。楽器屋の値付けがどれくらい正当か?という話はあるにしても、きちんとした健康かつ古い楽器で、音もしっかり出るのだから、一定以上高価なのは当然、という楽器だったと記憶する。

私の弓でこの良い楽器を弾くと、非常に良い音がする。己はこんなにも上手かったのか、と思う。
また、言われて見て、良い弓で私の楽器を弾くと、これまた非常に良い音がする。良い弓は短く使えば短くなり、長く使えば長くなるようで、まるで孫悟空が使う「如意棒」のようだった。
こうして感心していると、「良い弓で良い楽器を弾いてご覧」とおっしゃる。
で、折角の良い弓と良い楽器であるのに、これが意外といい音がしない。
不思議に思っていると、「それがあなたの持っている音だ」と。
「良い弓も良い楽器も、『あなたがやっている事』を反映する。だから、良い弓・良い楽器を使うと、『良い弾き方』をせざるを得ない。だから、良い弓・良い楽器を使うと上達するのだ」と。

この言葉にはすこぶる感心し今なお記憶している。

その後も機会があれば楽器屋で様々な楽器に触らせてもらうようにしているが、自分としては数十万円から三百万円くらいまでの楽器は、評価できるような気がしてきた。これらの楽器はおおむね、価格と性能が比例するように感じることが出来る(好みはまた別だが)。
だが、ここから上の楽器は皆同じように感じる。雲の中に入ってしまったようでもあり、価格に対する感度が対数的に下がっているようにも感じる。

まあ、魯山人先生が「わさびの味がわかっては身代は持てぬ」ので、身代は持っていないけれど、わさびの味がわからない方が幸せであると思っておこう。

そうそう、「良い弓・良い楽器」はとても買える値段ではなかろうと思ったけれど、一応値段を訪ねてみた。

「値段はつけられない。若くていい人がいたら貸したい」とのことであった。

すなわち、眼の前に居る私は「若くていい人」には該当しないということであった(残念)。

私に良い弓・良い楽器を触らせて下さったのは、長期的には「営業」に他ならないのだろうけれど、そこで何か要らないものやダメなものを売りつけられたわけではなく、私としてはあれを若くものを知らない人間に対する親切の一つだったと解釈している。そしてまた、あれから何十年も経って楽器を買うかもという際、この楽器屋にも行って楽器を複数触らせてもらっており、ご縁がなかったのは残念だと思っている。

注:ここでの楽器の価格は二十世紀のものも二十一世紀のものも、また、地域についても特段区別せず適当に書いているので、あまり参考にならないでしょう。お気をつけください。

Continue reading "良い楽器に触らせてもらう日"

| | Comments (0)

ブラームス弦楽四重奏曲第二番の難所

ブラームス弦楽四重奏曲第二番の難所、第3楽章メヌエットの中間部。ヴァイオリンとヴィオラの16部音符の「1拍目」がわからなくなる。
「わかるように弾いてくれ」と言うのも可能だが、言ったからそう弾けるのか、あるいは、そのように弾くのが正しいかは別な話。
こういうのはさらっと流すべきで「わかるように弾く」のは不正解と私は思う。

で、「覚える」。そのためにヴァイオリン・ヴィオラ奏者を酷使するわけにも行かないが、私の記憶力は乏しい。

だから、MuseScoreで最小の骨子を楽譜化し、音にして、ごくごくゆっくりからはやめまで繰り返し聴く。そしてこれに合わせて体を動かす。などなどした。本番はまあまあ通ったので良しとしよう。

クラリネット五重奏でもへんな「ズレ」の箇所があるので、同様の手立てをするつもりである。

はやめのテンポ

ダウンロード - brahmssq2.mp3

ゆっくりのテンポ

ダウンロード - brahmssq2slow.mp3

いちおうMuseScoreファイルも置いておこう。これを落として、MuseScore(たぶん4.0以降)で開けば自由なテンポでループ再生ができる。

ダウンロード - brahmssq2.mscz

Brahmssq21

Continue reading "ブラームス弦楽四重奏曲第二番の難所"

| | Comments (0)

チェロを選ぶ

2020年頃チェロを買った経験を整理し、さらにチェロを選ぶ方法について論じてみました。
チェロを弾いて何十年のアマチュア。チェロのレッスンに就いていないので、先生に見てもらうわけにもいかない、転居などによりふだん付き合いのある楽器屋さんがいない、というのが前提でしょうか。異論歓迎。

●結論
複数の楽器屋さんを訪れ、たくさんの楽器を弾かせてもらい、気に入った楽器を選んだ。

楽器を買おうと思う以前から(数十年前の学生時代から)それなりの数の楽器に触れており、自分が気に入る楽器など滅多にないと感じていた。
だから、楽器を買おうと思った際も、とにかく数を稼ぎ、自分が気に入りそうな楽器の相場を知ろうと考えていたら、偶然、気に入って、かつ、納得できる価格の楽器があったので、購入した。

より正確に言うならば、自分が気に入り、かつ、納得できる価格の楽器がなければ、「縁がない」と楽器購入を諦める(あるいは、長期的に考える)つもりだった。

※なお、今まで様々な機会に触れた楽器の多くは素晴らしい楽器だった。だが、自分が気に入るかどうかはまた別な問題である。
 ここで言う「気に入る」は、いわば人生を共にするレベルであるので、相当程度特殊な感情である。

●種々の情報を合わせた結論
今回の経験、および、ネット上の情報などからチェロを選ぶ際の目安は、以下の通りと考える。

(1)100万円以下なら新作・量産品から選ぶ。
 数量があるので、探すのは比較的楽。
 身近な奏者にメーカーを訊いて回るのも良いかも。

(2)300万円以上なら新作・ハンドメイドから選ぶ。
 ハンドメイドの新作チェロは200万円以下では作れない。
  チェロはヴァイオリンの2から2.5倍のコストがかかるらしい。
  ヴァイオリンほど売れないので、職人としても作り甲斐がない。商売でも旨味がない。
  それにより、出数が小さくなり、選択肢が少なくなる。探すのは少々大変。
  大人の嗜みとしての「システム開発などの見積もり作成」感覚から言って、ヴァイオリンの値段は適正。チェロは若干利益が薄いと想像する。
(誰かが弾いている新作の作者に作ってもらう、という選択肢もありうる)。

(3)100〜300万円の間のレンジがある意味もっとも面倒。
 オールドを探す。完全に一期一会の世界。探すのはかなり大変。運次第。
 量産品でもハンドメイドでも気に入れば無問題(と思うしかない)。

(4)とてもたくさんお金があるなら、高級オールドでもなんでも選び放題。
 この世界は知らない。楽器屋さんが門前に列をなすことと思います。
 まあ、騙されないように気をつけて、としか言えないでしょう。

自分が楽器を買ってから、今更、楽器職人さんのページを読んでいる。職人さんならではの単刀直入な文章である。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12726514019.html
自分が楽器を買う際に考えたことが概ね間違っていなかった、と感じる。

●前の楽器
自分がこれまで使ってきた楽器は、1987年大学入学時に買った楽器です。
1986年 Erich Werner, Bubenreuth(ドイツ)。1987年当時 49.5万円。

当時の名古屋では、各大学オーケストラに1〜2人この楽器を弾く人がいました。楽器屋さんが大量輸入したのでしょう。
製作者は個人名になっていますが、まあ「工房製」くらいの意味の半量産品でしょう。

●それから
毛替えなどで楽器屋に行くたびに、楽器に触らせてもらってきました。ずっと、何十年も。

一度はフレンチのオールドを知人から借りて弾いていました。約半年。
値段は訊きませんでしたが、おそらく200万円くらいでしょう。
先方も売れたら良いなと思っていたと思いまし、私もたいへん勉強させてもらったと思っていますが、そこまで惚れる楽器ではありませんでした。
おとなしくハイドンやモーツァルトを弾くには楽しいけれど、ベートヴェンでギラギラしようと思うと不足。そんな楽器でした。

楽器屋で弾き馴らした感覚からすると、一般的に10万円から300万円位までは価格と音が正比例と自分は感じる。
それ以上の価格の楽器は音が良いのか悪いのか判らなくなる。だから300万円位あれば自分が納得できる楽器が買えるだろうと思っていた。
もちろん、好みは別。

私が、楽器を選んだ時も、暗黙のうちに結局このフローに乗っていたと感じます。
まあ、楽器屋で楽器を弾かせてもらう時も、「50万円スタートで値段を上げていく」と言うと、そういう順番で楽器を持ってきてくれるようです。

結局、私は(3)。もっとも面倒な一期一会のレンジ。
修理痕があるため多少安価になっていたと想像される楽器。
修理が音質に悪影響を与えていないと思われた。
すごく大した楽器ではないだろうが、相応に枯れていて、かと言って音量もあってちょうど良かった。

この楽器はベルリンのErnst Kessler 1877年。どうやら独立前の21歳で作った楽器らしい。
https://www.bayfinestrings.com/product-page/ernst-kessler-cello-berlin-germany-1883
https://info.shimamura.co.jp/violin/catalog/past/369
偽ラベルを貼るほどの有名作家ではないと思うし、真作であろう、と判断している。

以上2020年ごろの情報と思って読んで頂きたい。
その後、円安・各国の価格上昇があるので、最大1.5倍程度掛け算して読むのが良いかも知れない。
さらに、円が弱いので、良い楽器が外国からは入ってきにくい(買い負ける)という話もあります。
ほんとは弓も買いたかったのだがなあ。

Continue reading "チェロを選ぶ"

| | Comments (0)

インターネット上の音楽

この数年インターネット上の音楽を聴いている。
様々な音楽を聴けるのがよいところで、特段のこだわりなく、できるだけ幅広く聴くというのを心掛けている。

特に、米国の放送会社(への番組配信を行っている)らしい「NPR」の「Tiny Desk Concert」はめっけもんである。
もともと、Blue Manの演奏を探していて見つけたのだが、非常に面白い。

以下、自分が気に入った音楽のメモである。

Rahim AlHaj NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=osf1gckzf70
 リュートや琵琶の仲間ウード。楽しい音程。

Monsieur Perine: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=JGL-eQAAxGs
 コロンビアの楽団。好きだね。

DakhaBrakha: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=hsNKSbTNd5I
 非標準なチェロ奏法。

Mariachi Flor De Toloache: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=-rl26QKPHtE&t=78s
 調子っぱずれのラッパが素敵。

Khruangbin: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=vWLJeqLPfSU
 「60~70年代のタイ音楽や東南アジアのポップ・ミュージックに影響を受けたソウル~ファンク」らしいっす。
 私には1970年代の刑事ドラマっぽく聞こえるのです。
 Gパン刑事(デカ)が港の倉庫の前、照り付ける日差しを浴びて走ってゆく。
 これが気に入ったら、https://www.youtube.com/watch?v=QcD_YXCxxZM も見て欲しい。

Red Baraat: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=lgmw41CY1Fo
 楽しいブラスバンド

My Bubba: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=uzzVdi3HOfU
 きれいなお姉さんの音楽

Rodrigo y Gabriela: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=wKd0HNg1kFQ
 恰好良いギターデュオ。

Danish String Quartet: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=cfuEIHEZobc
 珍しくクラシック系

SsingSsing: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=QLRxO9AmNNo
 一種異様。冷たいバックバンドも良い。アジアの共感。

A-WA: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=nbt-fm5DcQ0
 よくある民族合唱ともいえるけれど。ファンクでポップとでも言うのかな?

Blue Man Group: NPR Music Tiny Desk Concert
https://www.youtube.com/watch?v=qTJfITfbYNA
 NPRを発見したのは、ブルーマンを探していた時だった。

おまけ:
Jean Philippe Rameau. Forets Paisibles HD
https://www.youtube.com/watch?v=y6eEl6rEhuI
 ラモー「優雅な異国の人々」から。しゃれておる。

https://www.youtube.com/watch?v=bD9fLIBP13k
 同じくラモー。やりすぎ。アメリカのイメージなのか?

W.A. Mozart: ≪Divertimento≫ KV 563 / Veronika Eberle / Amihai Grosz / Sol Gabetta
https://www.youtube.com/watch?v=E8c83bpOVXo
 ガベッタ姐さん。強そう。

Menotti Help Help the Globolinks
https://www.youtube.com/watch?v=Te-XVgq0sb4
 メノッティのオペラ「助けて!助けて! 宇宙人がやってきた!」
 宇宙人は旋律的な器楽に弱いが、歌には不感症らしい。オペラの中で「うた」は歌ではないことになっているからね。
 下記の解説は貴重。
 http://blog.livedoor.jp/kzfj0409/archives/68071276.html

メルボルン・スカ・オーケストラ
https://www.youtube.com/watch?v=CVyJkKKfRFs
 おじさん率が高いが、おばさんも良い味出している。
 ウクレレの存在意義は理解できないが。
 He's A Tripper は盆踊りみたいだぞ。

| | Comments (0)

クラリネット五重奏(モーツァルト)

モーツァルト クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581

私がモーツァルトのクラリネット五重奏を知ったのは遠い遠い昔。

小学生であった私は、町の弦楽アンサンブルになんとか入れてもらって、末席でチェロを弾いていた。木祖の山の中の合宿にも着いて行き、弾けない曲があれば、練習場である大広間を後に、疎林の中を下って清流に足を浸して遊んでいた。その年、クラリネット奏者がやってきた。アンサンブルの中でも年長の人たちが五人だけ集まって、この曲を弾いていた。それまでアンコールピースのような名曲しか知らなかった自分の目の前に立ち上がる大人の音楽。

それまで、音楽とは旋律だと思っていた。自分ひとりで歌として歌えれば良いと思っていた。あのとき、それが簡単にうち壊された。五つの音が鳴っていて、ひとつの音楽が成り立っている。そんなことがあり得るとはとても思えなかったけれど、今、そこで現にそうした音楽が鳴っている。まるで、頭と足を固定されたまま、お腹の中がざわめいているような具合だった。

それから幾星霜。モーツァルトのクラリネット五重奏は、私の中で木祖の疎林と清流と分かち難く結びついている。嗚呼何をか謂わんや。

第1楽章 Allegro
第2楽章 Larghetto
第3楽章 Menuetto – Trio I – Trio II
第4楽章  Allegretto con Variazioni

クラリネットの名手シュタードラーあって始めてモーツァルトはクラリネット曲を書く気になったという。その後、ブラームス、ロベルト・フックス、マックス・レーガー、アンドレアス・ロンベルグ、スタンフォードらがこの編成で曲を書いている。これら多くの名曲佳曲の源流となったこの曲を弾くことができ、大変嬉しく思っています。

水茎の書き流すべき方ぞなき心の裡は汲みて知らなむ 西行

| | Comments (0) | TrackBack (0)

ブラームス弦楽六重奏第二番

Brahms: 弦楽六重奏第2番 ト長調作品36
 
 ブラームスは、その生涯に弦楽六重奏を2曲作っている。私たちドスリオスアンサンブルで弦楽六重奏第1番を取り上げたのは、遠い昔の第2回演奏会だ。以来、ブラームスやモーツァルトの五重奏はいくつか演奏しているけれど、今回久々の六重奏は第2番を取り上げる。第1番は音が多くて弾きにくかった覚えがある。四重奏を基準にして考えると、四重奏というのは適当な密度と適当な隙間があって、大体においてそれなりに泳ぐことができる。一方、六重奏第1番はたださえ四重奏より人数が多いのに、さらにさらにブラームス式に音がたくさんたくさんあって、やたら混み合っている(ハロウィン祭りの渋谷の交差点のようだ)。一方、第2番の方は、その反省によるものか、結構手すきに書かれている。本当に六人必要なのかなあ、と思うことも実はある。ブラームスの作品番号は大体120が上限と見て良いけれど、そのうち弦楽六重奏は作品番号18と36。どちらかというと初期の2曲である。
 さて、ブラームスの人柄は惚れっぽいけれど結婚できない、と要約できようか。恩人シューマンの細君クララに惚れ、あっちのアガーテに惚れ、あまつさえ、シューマンの娘ユーリアに惚れ、でも結局生涯独身を通す。音楽と人格は関係ないのかもしれないけれど、ブラームスの場合、この惚れっぽさと決め手に欠ける内気さが、煮え切らないロマンチシズムに共通するように思われがちだ。
 ともあれ、ブラームスの特徴ないし得意技は以下のとおりだ。

●対位法が使える。
●変奏曲が書ける。
●音が充満。
●前にも後ろにも進めない複雑なリズム。
●本人はピアニストだが、旋律が豊か。

 対位法も変奏曲も、普通はロマン派的書法ではなくて、むしろバロックの技法なのであるが、こいつらを使ってロマン派コテコテの曲が書けるというのが、またブラームスの個性であり、今回の六重奏もこれらの要素が横溢している。
 
第1楽章. Allegro Non Troppo
揺らめくようなファーストヴィオラのさざ波に乗って、鬱々とファーストヴァイオリンが歌い出す。 この楽章の冒頭のひと下りには、お前一体何拍子なんだと尋ねたくなる。大体において三拍子なのだが、三拍子×2小節=二拍子×3小節になるヘミオラを最初から繰り出す。というか、二拍子が微妙に四拍子に聞こえたり。こういうのって、奏者としては伸び縮みさせにくいんだけれど、音楽としては、鞏固さがあって、面白いんだよね。さらに、そこに付点つき音符が入ったり、単なる旋律線のようで、実は複雑なリズムなのですよ。
 
第2楽章. Scherzo: Allegro Non Troppo
秋風に舞う枯葉のような、すかして格好良いスケルツォ。中間部を聴くと、ブラームスのデビューがハンガリー舞曲だったことを思い出す。
 
第3楽章. Poco Adagio
孤高のファーストヴァイオリンに、ファーストヴィオラの泣きが入る。得意の変奏の中で対位法が炸裂し、暮れ行く夕日のように壮大な終結部に至る。嗚呼、六声でなければならなかったのだなあ、と思うこと頻り。
 
第4楽章. Poco Allegro
明るく軽快な一方で、やはり重さとコクが感じられる終楽章。これも時々変なリズムで惑わされるんですが、音楽は勝手に進んで行くのです。
 
 
プロフェショナルな奏者にとっても演奏しにくい曲であるらしく、実は絶対的にこの演奏が良い、というのを見たことがない。CDを買ってみても、持て余していたり、弾き荒らしていたりとがっかりすることも多い。そもそも六重奏の常設団体がないからか、バランスのとれた六人というのがなかなかない。英国Hyperionレーベルは地味だが質の高い室内楽録音を数多くCD化しているが、このHyperionから出ているThe Raphael Ensembleの演奏はしみじみと良いなと思わせる。
 

Continue reading "ブラームス弦楽六重奏第二番"

| | Comments (0) | TrackBack (0)

演奏会のお知らせ

いつもの演奏会です。私はブラームスを弾きます。その昔、第一楽章だけは仲間と弾いたことがあります。落ちて入る場所を間違える私に、ファーストヴァイオリンの某君は、私を救い出すために、ヴァイオリンを弾きながらチェロの節を歌うという離れ業を見せてくれました。以って偉とすべし。

今回は、若く充実したゲストが参加されます。こういう上手で情熱をも盛り込める人たちの演奏を目の当たりにすると、自分が生きてきた何十年かは全て無駄であったような捨て鉢な気持ちにもなるのですが、また、自分のような者がささやかながら続けてきたことも音楽の大河の一滴をなすと思えば、幾分の慰めともなろうかと思っています。

いつもより開演が遅いのでご注意下さい。また、曲順はたぶん記載通りですが、変動しない保証はありません。

■■ ドス・リオス アンサンブル
■■ 第29回サロンコンサート

♪ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲 第8番 作品110 ハ短調
  D.Shostakovich String Quartet No.8 Op.110 C-minor

[ゲスト演奏] 弦楽四重奏団ジオカローレ
♪メンデルスゾーン 弦楽四重奏曲 作品12 変ホ長調
  F.Mendelssohn String Quartet No.1 Op.12 E♭-major

♪ブラームス ピアノ五重奏曲 作品34 へ短調
  J.Brahms Piano Quintet Op.34 F-minor

日時 2015年5月23日(土)
開場15:00 開演15:30
入場無料

会場 鎌倉歐林洞

鎌倉駅東口下車 のんびり歩いて20分

| | Comments (0) | TrackBack (0)

楽器を捨てる日

文人であれば、筆を置く、あるいは、筆を折ると言うであろう。また、擱筆とも。

自分は、一体、いつまで、どのように楽器を弾き続けるのであろうか。また、いつ、どのように楽器を弾くことの終端を見出すのであろう。

思えば、長い間楽器を中心として生きて来た。一愛好家に過ぎず、私の演奏が世の中に必要とされている訳ではない。

家族を持ち、職場でも年長けて来て、ふと気がつくと楽器が遠のきつつある。細々とであっても続けて行くのか。一時的か、永遠か、思い悩まずに、一旦断念してみるか。

いつか、理想の演奏をする時に、弓を置き、二度とは楽器に触れない、と言うことがあるように想像していた。

また、獲麟とも言う。麒麟とは理想の仁政が行われた時にのみ捕らえることが出来ると言う。いつか、理想の演奏をすることがあれば、また、さもあらん。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

演奏会のお知らせ

カルテット交流会なるものを行います。

私はウェーベルンとコープランドだけですが、いろいろな団体のいろいろな曲があって、楽しみです。
時間が遅いのですが。

■■ カルテット交流会
■■ “Quartet Joint Recital”

♪Frohyroseフロハイローゼ
ラヴェル 弦楽四重奏曲 へ長調 より1,2,4楽章

♪Dosrios Ensemble ドスリオス・アンサンブル
メンデルスゾーン 弦楽四重奏曲 作品81 ”Fuga” ”Capriccio”
ウェーベルン 弦楽四重奏曲 ”Langsam”
コープランド バレエ音楽「ロデオ」から ”Hoedown” 
ドヴォルザーク 「バガテル」 作品47

♪弦楽四重奏団ジオカローレ GIOCAROLE
シベリウス 弦楽四重奏曲 作品56 「親愛なる声」

日時 2015年2月28日(土)
開場18:50 開演19:00
入場無料

会場 かなっくホール
JR 東神奈川駅、京浜急行 仲木戸駅 徒歩1分

| | Comments (0) | TrackBack (0)

演奏会のお知らせ

恒例の室内楽の演奏会をします。私は、ドヴォルザークとグリーグのチェロを弾きます。ご来臨の栄を賜りますようお願い申し上げます。

■■ ドス・リオス アンサンブル
■■ 第28回サロンコンサート
♪ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲 第12番 「アメリカ」 作品96 へ長調
A.Dvorak String Quartet No.12 "America" Op.96 F-major

♪グリーグ 弦楽四重奏曲 作品27 ト短調
E.Grieg String Quartet Op.27 G-minor

♪ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第7番 「ラズモフスキー第1番」作品59-1 へ長調
L.v.Beethoven String Quartet No.7 “Razumovsky No.1" Op.59-1 F-major

日時 2014年12月13日(土)
開場13:30 開演14:00
入場無料
会場 鎌倉歐林洞
鎌倉駅東口下車 のんびり歩いて20分

| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧